「娘に跡継ぎにしたいが、どうすればいいかわからない」
「両親から跡継ぎをお願いされているけれど、何を考えればいいんだろう」
事業を経営されているご家族によくあるのが、このような悩みです。
ご息女を跡継ぎにする、もしくは親御様の跡継ぎになる場合、さまざまな「知っておくべきこと」「話し合うべきこと」があります。
本記事では親御様・ご息女様両方に向けて、娘が跡継ぎになるメリット・デメリットや懸念点などを紹介します。
娘が跡継ぎになるメリット・デメリット
娘を跡継ぎにするのには、さまざまなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
・取引先や従業員に受け入れてもらいやすい ・融通をきかせやすい ・株式や資産などを移転しやすい | ・経営者としての素質があるとは限らない ・「若い女性」という点で甘く見られかねない ・体力的な面で男性に劣ってしまう ・女性にとって大事な「時間」を奪ってしまう |
大きなメリットは血のつながった家族に事業をバトンタッチできるという点です。
時間的・心理的にも余裕を持って引き継ぎできるうえに、相続権があるため経営権を移転しやすいのです。
一方、「女性」というだけで甘く見られてしまったり、体力的な面で不利になったりすることも否定できません。
詳しいメリット・デメリットは以下の記事で解説しています。
娘を後継者にするメリット・デメリット7選|後継者がいない場合の解決策も解説
娘が跡継ぎになるタイミング
事業を継ぐ側も引き渡す側も、知りたいのはどのようなタイミングで引き継ぐのがベストなのかということでしょう。
ご息女が跡継ぎになる主なタイミングは以下の3点です。
- 高齢化
- 相続
- 昔からの約束
それぞれ詳しく解説します。
高齢化
中小企業庁の報告によると、「親族に引き継ぐ際の平均年齢」は以下のとおりです。
2017年版中小企業白書では、(株)東京商工リサーチの企業データベースを用いて経営者交代前後の経営者年齢について分析している。それによると、親族内の場合で交代前の平均年齢が69.3歳、親族外の場合で交代前の平均年齢が63.7歳であった。
出典:中小企業庁
以下の画像もご覧ください。
出典:中小企業庁
60代の時点で「後継者あり」が「後継者不在」の割合を上回ります。
したがって、多くの場合、「60代のうちに後継者を見つけている」とわかります。
娘を跡継ぎにするか、もしくは他の候補者を見つけるかは60代のうちに決めるのが一般的といえるでしょう。
相続
経営者の死亡によって、株式などを相続したご息女が事業を引き継ぐというケースも少なくありません。
ただし、相続の場合、ご息女は事業に関する情報をまったく引き継がれることなく経営にのぞまなければなりません。
負担が大きくなりかねないため、なるべく元気なうちに「跡継ぎを誰にするか」を決め、経営を引き継ぐべきでしょう。
参考記事:『後継者難』倒産 年度最多の404件、「死亡」と「体調不良」で8割超 (2021年度4-3月)
昔からの約束
「◯歳に引き継ぐ」
「◯年は修行する」
このような約束を若い頃に交わしているケースもあります。
あらかじめ約束を交わしているため、心理的なストレスを感じずに事業を引き継ぐことができます。
娘を跡継ぎにする方法
跡継ぎにするのは「来月からやってくれ」といって、すぐにできるものではありません。
法律に基づいて経営権を譲渡する必要があるのです。
経営権の譲渡には、さまざまな方法があります。
売買 | 引き継ぐ側(ご息女)が自社株を購入し、経営権を取得する |
生前贈与 | 暦年課税制度や相続時精算課税制度を利用して、株式を譲渡する |
相続 | 死亡時に株式を相続する |
いずれの場合も金銭のやりとりが発生します。
しっかりと家族間で「どのような方法を取るか」を話し合いましょう。
もしくは、事業承継の専業会社に仲介やアドバイスを依頼するのもひとつの手段です。
事業承継には専門的な知識や経験が必要な面もたくさんあります。
円滑に進めたい場合は、事業承継の専門会社に依頼するとよいでしょう。
娘を跡継ぎにするうえで大事なこと
ご息女を跡継ぎにする場合、知っておくべき「大事なこと」がいくつかあります。
ここではとくに重要な3つを紹介します。
- 引き継ぎまでに余裕を持って育成する
- 女性ならではの強みを活かす
- 従業員や取引先にしっかり根回しする
これらを心得たうえで、ご息女を跡継ぎとして育てましょう。
引き継ぎまでに余裕を持って育成する
時間をかけて育成するのが大事です。
男性と違って、女性は「跡継ぎを考えていなかった」というケースも多いからです。
日本政策金融公庫の「子どもの事業承継意欲に関する調査」によると、男性の6割〜7割は事業承継する意欲を持っているとわかります。
出典:日本政策金融公庫
一方、女性はそこまで高くないうえに、約6割が「無関心層」なのです。
つまり、男性は他の会社に勤めたとしても、心のどこかで「将来継ぐことになるかもしれない」と準備しているケースが多いのですが、女性はそうでない可能性が高いわけです。
したがって、実務の面でも心構えの面でもゼロから育て上げなければなりません。
年単位のスパンでじっくり引き継ぎしましょう。
女性ならではの強みを活かす
経営に必要不可欠な業務を引き継ぎ、ある程度の育成を終えたら、実際に経営を任せてみるのも悪くありません。
その際に、「こうすべき」と押し付けるのではなく、ご息女の好きなようにやらせてみるのが大事です。
事業によっては「女性である」という点がプラスに働くことがあります。
たとえば、女性の視点を取り入れることで、新しい顧客の取り込みや販路の拡大を期待できるでしょう。
実際に、米MSCIのデータを分析すると、女性の活躍は「企業に実利的なメリットをもたらす」ともわかっています。
具体的に言えば、「女性の活躍を加味した株価」と「女性の活躍を加味しなかった株価」を比べた場合、前者のほうが高くなると判明したのです。
従業員や取引先にしっかり根回しする
引き継ぐ際には、従業員や取引先にしっかり根回しするのが大事です。
しっかり根回ししておくことで軋轢が生じるのを防いだり、スムーズに引き継いだりできます。
帝国データバンクの調査によると、日本における女性経営者は約8%程度しかいません。
さらに、そのほとんどが50代以上で、20代、30代の経営者はめったにいないのです。
若い女性経営者のもとで働いたり取引したりする経験がほとんどないため、場合によっては経営に悪影響が出ることも考えられます。
このような悪影響を極力減らすためにも、事前の根回しを徹底するべきなのです。
娘が跡継ぎになる際の懸念点
娘が跡継ぎになる際には、いくつかの懸念点があります。
以下3つの懸念点をしっかり親子間で話し合うべきでしょう。
- 婚活・結婚
- 産休・育休
- メンタル・体の不調
それぞれ解説します。
婚活・結婚
婚活・結婚は女性にとって非常に大きな問題です。
なぜなら高齢出産のリスクがあるため、男性よりも結婚の適齢期が極めて短いのです。
…高齢出産には種々の問題がつきまとう。 妊娠中に起こる産科合併症のほとんどが年齢依存性に上昇する。高齢妊娠だと妊娠初期の流産率が上昇する。
出典:J-STAGE
このように年齢を重ねるごとに、出産のリスクはどんどん高まります。
実際に、35歳からは出会いがかなり少なくなることを意味した「35歳の壁」という言葉があるほどです。
したがって、ご息女に跡継ぎすることはできても、結婚適齢期を逃してしまえば「跡継ぎの跡継ぎ」ができなくなってしまう恐れがあるわけです。
「婚活・結婚に対してどう考えているか」をしっかりと話し合いましょう。
産休・育休
男女平等が叫ばれるなかでも、(残念ながら)育児の中心は女性です。
ご息女が産休・育休に入ってしまえば、会社を経営する人がいなくなってしまいます。
あらかじめご息女が産休・育休に入っても影響が出ないような環境を作っておくか、もしくは娘婿を跡継ぎにすることを検討しましょう。
娘婿を跡継ぎにする際のメリットなどは次の章で解説します。
メンタル・体の不調
女性は男性よりも体力の面で劣るうえに、生理やホルモンバランスの乱れなど自分ではどうにもできない体調不良に見舞われることもあります。
このような点をいかにしてサポートしていくか、も検討しなければなりません。
娘の跡継ぎには娘婿の検討も大事
ご息女に結婚意欲があるなら、娘婿を跡継ぎにするのも選択肢の一つです。
娘婿を跡継ぎにするメリットを簡単に紹介します。
- 精神的にも体力的にも娘をサポートしてくれる
- 経営に新しい風を吹き込んでくれる
- 程よい距離感で仕事を引き継げる
精神的にも体力的にも娘をサポートしてくれる
娘婿を跡継ぎにすれば、二人三脚で経営を進めてもらうことができます。
引き継ぐ労力は増えますが、娘婿は精神的にも体力的にも娘をサポートしてくれるのです。
上述したとおり、女性は女性特有の理由で体調が悪くなったり、男性よりも体力面で劣ったりするというリスクがあります。
しかし、結婚相手がいれば、そういったリスクをカバーしてくれます。
経営に新しい風を吹き込んでくれる
娘婿は家族の一員でありながら、血のつながっていない「第三者」の立場でもあります。
第三者だからこそ、経営を客観的に判断することができるわけです。
結果として、会社を今まで以上に事業を発展させてくれることもあるでしょう。
実際に、スズキ株式会社の鈴木修氏やアシックスの尾山基氏など、婿養子として会社を引き継ぎ世界中に名を轟かせたケースも少なくありません。
このように親御様が育ててきた会社が、世界中に羽ばたくきっかけになる可能性もあります。
程よい距離感で仕事を引き継げる
ご息女に引き継ぐ場合、「血の繋がった家族」「異性」という点から遠慮したり大事な部分を隠したりしてしまうこともあるでしょう。
会社の業績が芳しくなかった場合、身内であるご息女に引き継ぐのはかなり心労が募ります。
最悪の場合、ご息女の人生を台無しにしてしまう恐れもあるのです。
一方で、娘婿は厳密に言うと”赤の他人”であるため、程よい距離感で仕事を引き継ぐことができます。
ご息女に比べると会社の内情や業績を伝えやすいですし、同性であるという点からそこまで遠慮する必要はありません。
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娘を跡継ぎにするうえで大事なことや懸念点などをまとめます。
- 娘を跡継ぎにするのはメリット・デメリットがある
- 女性は男性ほど跡継ぎの心構えを持っていないことが多いため、引き継ぎには時間をかける
- あらかじめ従業員・取引先に根回ししておく
- 婚活・結婚や産休・育休などさまざまな懸念点がある
- ご息女に結婚意欲があるなら、娘婿を跡継ぎとして考えるのも大事
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