会社を引き継ぐ際に検討するべきなのが「親族を跡継ぎにするか、第三者を後継者にするか」という点です。
親族に任せるか、第三者に引き継ぐかはそれぞれメリット・デメリットが異なります。
この記事では、「娘」「婿養子」「第三者」それぞれを跡継ぎ・後継者にしたときのメリット・デメリットを紹介します。
記事の後半では、跡継ぎ・後継者を見極めるポイントも解説するのでぜひ最後までご覧ください。
後継者と跡継ぎの違いとは
はじめに、「後継者」と「跡継ぎ」の違いを明らかにしましょう。
ほとんど同じ文脈で使われますが、場合によっては、異なる意味を持つこともあります。
詳しくは下をご覧ください。
後継者 | 跡継ぎ |
事業など前任者の仕事を引き継ぐ者 | 事業だけじゃなく相続など財産も引き継ぐ者 |
「後継者」という言葉は、単に「前任者を引き継ぐもの」として使われるケースが多いです。
一方、「跡継ぎ」は事業に加えて相続など財産も引き継ぎます。
このことから「後継者=第三者」「跡継ぎ=身内」とも捉えられます。
後継者・跡継ぎ候補
事業の後継者・跡継ぎを考える際の主な選択肢は以下の3つです。
- 親族
- 婿養子
- 第三者
それぞれ簡単に解説します。
親族
もっともメジャーなのが「親族」です。
日本の企業は96.3%が「同族経営である」というデータもあります。
日本は、同族企業大国だ。国税庁の会社標本調査(2018年度)によると、日本で活動中の会社(単体法人)の96.3%は同族企業で、256万1133社に上る。
出典:民間税制調査会
ただし、多くの場合、跡継ぎになるのはご子息です。
ご息女が跡継ぎになるケースはほとんどありません。
帝国データバンクの調査によれば、女性の経営者は8.1%しか存在しないのです。
さらに、その中でも約6割が60歳以上であり、20代〜30代の若い女性経営者は極めて少数派です。
跡継ぎがご息女しかいない場合、多くの方は婿養子か第三者を「後継者にしている」とわかります。
娘を跡継ぎにするケースもありますが、さまざまなリスクが発生する点に注意してください。
リスクは下の記事で解説しています。
娘を後継者にするメリット・デメリット7選|後継者がいない場合の解決策も解説
婿養子
ご息女の結婚相手を「婿養子」として迎え入れ、跡継ぎにする方法もあります。
この場合、ご息女を跡継ぎにするリスクを回避できますが、婿養子の人間性を見極めなければなりません。
婿養子の人間性が跡継ぎとしてふさわしくなければ、会社の第三者に会社を引き継ぐことも検討するべきです。
婿養子を後継者にする際のポイントに関しては、下の記事でも詳しく解説しています。
娘婿が会社を継ぐ7つの課題とメリット|検討すべきポイントも解説
第三者
親族に引き継げない場合、第三者を後継者にするしかありません。
この場合、次のような選択肢があります。
- 従業員
- 外部の人間
- 外部の企業
主に以下の方法で後継者を探します。
- 地方自治体の相談窓口
- 金融機関
- M&A仲介業者
- M&A仲介サイトなど
会社が自らの手から離れてしまうことになりますが、メリットがあるのも事実です。
詳しくは続きをご覧ください。
親族を後継者・跡継ぎにするメリット・デメリット
ここからはそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
まず、親族を後継者・跡継ぎにする際のメリット・デメリットです。
メリット | デメリット |
スムーズに引き継げる 取引先や従業員に受け入れてもらいやすい 株式や資産などを移転しやすい | お子様が引き継いでくれるとは限らない お子様に経営者の素質があるとは限らない |
詳しく解説します。
メリット
親族を跡継ぎにする最大のメリットが「スムーズに引き継ぐことができる」という点です。
血の繋がった家族なので遠慮することはありませんし、教育や引き継ぎに時間をかけられます。
さらに、「息子・娘である」という点から取引先や従業員に受け入れてもらいやすいというメリットもあります。
相続権があるため、株式などの資産を比較的簡単に移転させられるのもメリットの一つです。
デメリット
一方で、お子様が事業を引き継いでくれるとは限りません。
エヌエヌ生命の調査によると、「事業を継承する」と答えたのは息子が34.3%、娘が13.7%でした。
とくに、娘は7割以上が「継がない予定」と回答しています。
このように、親族には「継いでもらいたくても継いでもらえない可能性」があるわけです。
継いでくれる場合でも本人に素質があるとは限りません。
このようなデメリットがあることを把握しておきましょう。
婿養子を後継者・跡継ぎにするメリット・デメリット
婿養子を後継者・跡継ぎにする際のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
娘を跡継ぎにするリスクを解消できる 場合によっては会社の業績を伸ばせる程よい距離感を保って引き継ぎできる | 人間性の見極めが必要になる 離婚してしまうリスクがある |
詳しく解説します。
メリット
婿養子の場合、ご息女を「跡継ぎ」というプレッシャーから解放することができます。
さらに、会社を客観的な目線で見ることができるため、業績を伸ばせる可能性もあります。
実際に、婿養子が会社を大きく羽ばたかせたケースは少なくありません。
ここで大事なのが「かならず養子縁組する」という点です。
養子縁組しなければ相続権がなく、第三者に会社を引き継ぐのと変わりません。
デメリット
もっとも大きなデメリットは離婚リスクです。
株式を譲渡してしまっている場合、第三者に会社の経営権が渡ったのと同じ状況になります。
ただ、離婚のリスクは信託という制度を利用することで解決可能です。
信託を活用すれば、株式の受益権と議決権を切り離すことができるのです。
このように設定しておけば、離婚すると、自社株がすべてご息女に移転します。
ただ、信託を利用すると婿養子の身分がいわゆる「雇われ社長」と同じになるため、モチベーションの低下を招きかねません。
親族以外を後継者・跡継ぎにするメリット・デメリット
親族以外を後継者・跡継ぎにする際のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
後継者候補の数が多くなる 従業員を後継者にする場合、スムーズに引き継げる | 資産を相続しにくい会社が手元から離れてしまう 教育や引き継ぎに手間がかかる |
詳しく解説します。
メリット
もっとも大きなメリットは「後継者候補の数が多くなる」という点です。
自由に後継者を見極められるため、会社を発展させられる可能性があります。
従業員を後継者にする場合、一から教育する必要がありません。
他の社員にも受け入れてもらいやすいため、スムーズに引き継ぎができます。
デメリット
最大のデメリットは資産を相続しにくいという点です。
株式を譲渡する場合、相手に贈与税が発生してしまう恐れがあるのです。
また、従業員以外を後継者にする場合、教育や引き継ぎに手間がかかります。
さらに、第三者に株式を譲渡することになるため、会社が完全に手元から離れてしまいます。
後継者・跡継ぎに必要な素質
いずれの場合も、大事なのは「後継者・跡継ぎが経営者としての素質を持っているかどうか」です。
ここでは以下の2つに分けて、必要な素質を紹介します。
- 育成できる部分
- 育成できない(見抜かなければならない)部分
育成できる部分
引き継いでからも育成できる点は以下の2つです。
- 実務経験
- 経営能力
仮に引き継いだ相手がまったくの未経験でも、しっかりとサポートしたり教えたりすることで実務経験を教え込むことは可能です。
経営能力も引き継いだあとから育成できます。
経営するうえでもっとも大事なのは「経験」「知識」であり、それらは実務を経て培われていくものだからです。
したがって、実務経験や経営能力が乏しくても、後継者・跡継ぎとして「ふさわしくない」と考えるのは時期尚早です。
育成できない(見抜かなければならない)部分
一方で、以下の点は基本的に育成できません。
そのため、あらかじめ「能力を持っているかどうか」を見極めなければならないのです。
- 経営者としてのリーダーシップ、人間性
- 経営理念の理解や共感
- 円滑なコミュニケーション能力
- 地頭の良さや要領の良さ
これらは生まれつきもしくは子どもの頃に身につける能力です。
たとえば、どれだけ実務経験を積んだり経営能力が高かったりしても、リーダーシップがなければ誰もついてきません。
初対面で見抜くのは困難ですが、しばらく行動をともにしたり深く向き合ったりして人間性を確認しましょう。
そうやって「求めるレベルに達していない」と感じた場合、別の後継者・跡継ぎを見つける覚悟も必要です。
後継者・跡継ぎとして婿養子をお考えなら
後継者・跡継ぎについてまとめます。
- 後継者とは事業を引き継ぐ相手のことで、跡継ぎとは事業も資産も引き継ぐ相手のこと
- 文脈によって異なった意味で使われることがあるが、基本的には同じ
- 親族を跡継ぎにするのがもっともスムーズ
- ご息女しかいない場合、婿養子を見つけ出すのがおすすめ
- 相手が「後継者・跡継ぎとしてふさわしいか」をしっかり見極める
親族以外に後継者や跡継ぎが見つからない場合、事業承継仲介の専門会社AOBAなどを利用しましょう。
ご息女の婿養子候補を探す場合、結婚承継サービスがおすすめです。
結婚承継は全国70以上の金融機関と提携している結婚相談所マリッジが提供しているサービスです。
詳しくはこちらをご確認ください。